(一途な恋 シリーズ)

出会い(第1章)

まだ寒い春。
15
歳の私は、着なれない新しい制服に袖をとおした。

特に期待はなく、少しの不安をかかえて
これから3年間通うであろう門をくぐった。

1
2
そこが私の教室だった。
知り合いは誰もいない。

同じ中学出身の子は誰もこの高校には進学しなかった。
自宅から40kmも離れた、通学に1時間半かかる田舎の高校。
私はなんでその高校を選んだのだろうか?

・・・きっとそれは彼女に会うため。


小・中学校と生徒会長だった私は、周りの友達から
みればとても明瞭で活発な子だった思われていたはず。
でも高校では、物静かだった。というより暗かったと思う。

誰かと話そうという社交性はまったくなく、休み時間と
いえば、好きなアーティストが出ている雑誌を読むくらい。

「誰が好きなの?」彼女が話かけてきた。
「え〜っと、TM NETWORKとか・・・」
「私も好き!一緒やね」

きっとこれが、彼女と交わした最初の言葉だったと思う。

彼女の名前は「菜々子」。

自然に意気投合した私たちは、TMの話はもちろん

たわいもないことを毎日話すようになった。
いわゆる普通の女子高生同士の会話だ。
特に部活にも入っていない私たちは放課後もずっと一緒だった。
帰宅してからも事ある毎に長電話をして、よく親に怒られていた。

「学校でいつも話しているんだから、家に帰ってきてまで
話すことないでしょ!」

今思えばそのとおりだと思う。
何を話していたんだろう?思い出せないくらい、くだらないことだった

はず。でも彼女と話したくって暗記した番号を押していた。

菜々子と一緒にいるのが楽しくてラクだった。
でもいつからか一緒にいるのが苦しくなった。

2
年生になって、私たちは別々のクラスになった。
いつも一緒だったのに、すこしリズムが違ってきて、話す時間も減った。
そんなときクラスメートから「菜々子ちゃんって、3組の

誠くんと付き合っているんだって」と聞かされた。

1
年間ずーっと、なんでも話をしてきたのに・・・
私が一番の親友だって思っていたのに・・・
なんとなく裏切られた気持ちで、ショックだった。

学校の帰り道「どうしたの?」彼女は聞くけど

「なんでもないよ」といいながらそっけない態度をとる私。

…なんで言ってくれなかったの?
…私たちってこんな薄い関係だったの?


さらに後日、2人には体の関係があることを聞いて、なんともいえぬ
気持ちになった。
誠は同じ高校の同級生で、彼女と同じ中学出身である。

彼女は中学のころから誠と付き合っていたそうだ。


当然、通学電車でも学校でも誠の顔を見るのだが、なんだかとてもイライラする。


なんであんたが菜々子と付き合っているの?

こいつそんなにいい男?
ちゃんと菜々子のことわかっているの?


考えれば考えるほど、苦しくなった。

菜々子のあの唇にキスをして
菜々子のあの白い肌を抱きしめて
菜々子のあの胸をさわって
菜々子のあの・・・

想像するだけど、頭が痛く気分も悪くなってくる。
でも考えずにはいられない。

私の菜々子なのに・・・


彼に抱かれる菜々子のことを想像すると自然と私の手は

下に伸びた。

ゆっくり目を閉じる。
菜々子の声、吐息、あえぎ声。
私の頭の中では、妖艶で淫らな菜々子。

激しく動いていた手が止まり私は絶頂に達する。

しばらくすると、激しい虚しさとともに、確信する
「嫉妬」という感情。

私は菜々子が好きだ。



この自覚した日を境に、私は少ずつでも確実に壊れていった。


女が女を好きになる。
一瞬の迷いなのかもしれない。
でもこの手で抱きしめたい
?
私は何かが欠如しているのだろうか?
菜々子のその手をとって今すぐ走り去りたい
この気持ちは受け入れてもらえるのだろうか?
拒絶されるのが怖い。
だからこの気持ちは言えない。


そんなことばかり考えていた。
ある朝、起きて髪をとかすと、クシに髪がいっぱい
からまっていた。
後頭部に10円玉ほどの肌色が見えていた。

これは同姓を好きになった罰なんだろうか?

私は長かった髪を切った。


苦しい、苦しい・・・
どうしたらいいのだろう?
何も手につかない。
眩しい太陽が恨めしく、どこにも出かけず、蝉の声を
聞きながら、ただ菜々子のことだけを考えていた高2の夏休み。



ある日、中学時代の友人・今日子にキャンプに誘われた。
今日子には、この春大学生になったばかりのお兄さんがいる。
お兄さんは今大阪で一人暮らし中。そのお兄さんが大学の
友人を連れ帰省するから、みんなで遊ぼうということになったらしい。

車で移動すること1時間半。山の中のキャンプ場についた。
久しぶりに外の空気を吸ったような気がする。
キャンプといえば、定番のカレー作りと花火。
楽しそうに用意をしているみんなを見て、来たことを後悔していた。
私は集団行動が苦手だった。
でも折角だからと、少し距離はおきながらも、私なりにみんなの
会話に入る努力はしたけど…疲れた。

キャンプ場の夜はとても静かだ。
静かすぎて、虫の鳴き声がうるさい。
なかなか寝付けなかった私はテントを出た。

すごく星がきれいだった。
もっと近くで星がみたくて、少し歩いて高台にのぼった。
?
草むらにねそべって、空を見上げす。
一面に広がる星たちがとても明るくきれいで、涙が出てきた。
私の心の奥に秘めている気持ちがともて汚く思えて、涙が
とまらなかった。

苦しい…私は嫉妬の塊でできた醜い人間なんだ。


「あれ?どうしたの?眠れないの?」
急に声をかけられ驚いた。

キャンプで一番よく私に話しかけてくれた大阪の大学生・川上さんだった。

「ん?泣いている?」
「…なんでもないです」と横を向くしかなかった。

しばらくして川上さんが、
「すっげー、星がいっぱいみえるやん、大阪の100倍みえるわ」
と言って私の横に寝そべった。

川上さんは星に詳しいようで、いろいろな星座の話をしてくれた。
私はうなずきもせず、ただだまって川上さんの話を聞いていた。


(
この人、私に気を使ってくれている。きっと優しい人なんだろうなぁ)

「…すきです」
唐突に口から出た言葉に、自分でもびっくりした。
何を血迷ったのか、いきなり今日初めて会った人に告白をしてしまった。

川上さんはすごくおどろいたようで「…星が?」と聞き返した。

私は首を横に振った。
しばらくの沈黙のあと、私は覆いかぶさるように抱きしめられた。

そしてキス。私のファーストキス。

私は彼を利用した。
彼女は抱かれたことがある。抱かれるってどんな感じなんだろう?
男の人に抱かれれば、男性が好きになるかもしれない。
何かがかわるかもしれない。

舌をからめながら、洋服が脱がされていく。
私は目を閉じ、ただ彼に体をゆだねるだけ。
彼の愛撫の手が、首、胸、そして私の一番敏感な部分を捕える。

何かがかわるかもしれない。

彼の指が挿入された時、「あぁ」小さく声が漏れた。
自分でも濡れているのがわかった。感じているのがわかった。

菜々子が好きなのに、川上さんに感じる私ってなんだか卑猥。


彼が自分のジーパンのベルトに手をかけた。
すでに彼のモノは反り上がっていた。私の足の間に彼が体を
入れ、そしてその大きなモノを濡れているところに押し当てて…

「いたい!」
あまりの痛さに顔が歪む。それと同時に我に返った。

こんなことしても何もかわらない。

私が感じたいぬくもりは彼じゃない、彼女だ。菜々子だけ。
?
「本当に、ごめんなさい」
洋服を直して、その場から逃げ去った。

キャンプから帰って、私はさらに無気力になっていた。


2
学期が始まった。
久しぶりの学校。彼女とのたわいもない話。
何もかわらない。

| Next |

 web拍手 by FC2


|| Index ||

Copyright(C)2013 ID1127 All rights reserved. designed by flower&clover
inserted by FC2 system